腸内細菌と代謝物の同時解析を可能にする新技術「逐次共抽出法」を開発
学校法人千葉工業大学 大学院先進工学研究科 生命科学専攻の南澤麿優覽准教授、坂本泰一教授らの研究グループは、少量の糞便サンプルから腸内細菌DNAと代謝物(ポリアミン)を同時に抽出・解析できる新しい手法「逐次共抽出法」を開発しました。この技術は、これまで別々に行われていた腸内細菌叢解析と代謝物解析を同一サンプルから統合的に評価することを可能にし、アルツハイマー病モデルマウスにおいて腸内環境の異常進行を可視化しました。
研究の背景と従来の課題
アルツハイマー病は世界中で5,500万人以上が罹患するとされる代表的な神経変性疾患であり、高齢化に伴い患者数が増加し続けています。近年、脳だけでなく腸内環境が神経機能や免疫機能に深く関与することが明らかになり、「腸-脳相関」が世界的な研究テーマとなっています。特に腸内細菌叢は、代謝物の産生を通じて脳や全身の機能に影響を与えることが知られており、アルツハイマー病との関連も数多く報告されています。しかし、従来の研究では、腸内細菌叢解析と代謝物解析が別々の試料を用いて行われることが多く、腸内細菌の変化と代謝機能の変化を直接的に関連付けて評価することが困難でした。この課題に対し、研究グループは同一の糞便サンプルから両者を同時に解析する新技術の開発に取り組みました。
新技術「逐次共抽出法」の概要と研究成果
研究グループが開発した「逐次共抽出法(Sequential Co-extraction Method)」は、糞便から腸内細菌DNAを回収する工程と、代謝物であるポリアミンを回収する工程を一体化させたものです。この手法では、まず腸内細菌DNAを抽出し、その後に残る画分を利用してポリアミンを回収します。これにより、わずかな糞便サンプルから、腸内細菌叢の構成と代謝物の量を同時に評価することが可能となりました。

本技術をアルツハイマー病モデルマウスに適用し、8週齢から56週齢まで経時的な解析を実施したところ、若齢期からLactobacillus(乳酸菌)の減少が認められ、さらにスペルミジンなどのポリアミン代謝異常が出現することが明らかになりました。また、アルツハイマー病モデルマウスでは腸内細菌叢全体の構造変化が進行していることも確認され、これらの結果は腸内細菌叢の変化と代謝機能の変化が密接に関連していることを示唆しています。
研究成果の意義と今後の展望
本研究の最大の意義は、「どの細菌が存在するのか」だけでなく、「その細菌がどのような代謝状態を作り出しているのか」を同時に評価できる点にあります。従来の別々に行われていた解析では困難であった、腸内細菌叢と代謝物の直接的な関係性の議論を可能にします。
今回開発された逐次共抽出法により、腸内環境をより統合的に理解できるようになり、アルツハイマー病のみならず、パーキンソン病、炎症性腸疾患、糖尿病、肥満など、腸内環境との関連が指摘される多くの疾患研究への応用が可能です。本成果は、「腸内細菌と代謝物を別々に見る時代」から「同時に見る時代」への転換点となるものです。
今後は、ヒト糞便検体への応用を進め、アルツハイマー病患者や高齢者における腸内環境変化の解析へ展開される予定です。また、病態進行を反映する非侵襲的なバイオマーカー探索や個別化医療への応用も期待されます。本研究で確立された逐次共抽出法は、次世代のマイクロバイオーム研究を支える基盤技術として発展する可能性があります。
本研究成果は、Nature Portfolioが発行する国際学術誌「Scientific Reports」に2026年7月9日付で掲載されました。
論文情報
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論文題目: Sequential co-extraction of gut microbial DNA and fecal polyamines enables integrated microbiome–metabolite profiling in an Alzheimer’s disease mouse model(アルツハイマー病モデルマウスにおける統合的マイクロバイオーム-代謝物解析を可能にする腸内細菌DNAおよび糞便ポリアミンの逐次共抽出法)
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著者: Shion Akagi, Yuma Sato, Taiichi Sakamoto and Mayumi Minamisawa
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掲載誌: Scientific Reports(Nature Portfolio)
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公開日: 2026年7月9日


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